Halina : 「主婦による社会起業−『キッチンハリーナ』を事例に」

友人の西村和代さんがハリーナを事例にレポートを作ってくれました。
興味のある方はご覧ください。


2006年春学期 現代社会企業論レポート

「主婦による社会起業−『キッチンハリーナ』を事例に」

同志社大学大学院総合政策科学研究科
ソーシャル・イノベーション研究コース博士課程(前期課程)1年次
 西村和代

■ はじめに
 このレポートでは、「内外のSocial Enterpriseの代表的事例」を挙げることが課せられていますが、私の中での代表的事例を紹介することにします。それは私の身近で専業主婦が起業した事例であり、ぜひとも紹介したいと考えたからです。その事業が起こった背景から、展開過程、成果についての評価を論じながら、女性が起業することで地域社会に与える影響や可能性を見出せればと思います。

■「キッチンハリーナ」の紹介
 キッチンハリーナは、佐藤友子さんが2003年6月にオープンした手作り家庭料理のお店です。京都市左京区、東大路通りに面した高野と百万遍の中間地点にあります。10坪ほどのお店では季節のごはんとカフェ、フェアトレード商品の販売を行い、2階のフリースペースは交流の場として利用されています。
 佐藤さんは1961年、秋田県生まれ。家族は5人。大学生の娘さんと息子さん、中学生の娘さんのお母さんです。「ハリーナ」とはフィリピン語で「おいでよ」という意味。その言葉のようにお店の雰囲気はほっこりとするあたたかさに満ちています。
 このレポートを書くにあたり、最近ご無沙汰していたのですが、2時間にわたってインタビューさせていただきました。その間にも、佐藤さん曰く「ユニークな」お客様たちと出会うことができました。オープンしたての時にはなかったお客様とのつながりを深く感じます。ハリーナの魅力にすっかりはまってしまい、閉店時間を過ぎるまでゆっくりさせていただきました。

■ 起業の背景
 佐藤さんはもともとお店を出したいという指向があった訳ではありません。結婚後母となり、子どもを通じての出会いや、地域での活動の中で様々なことを知り、多くの積み重ねの中から自然発生的にお店の出店へとつながってきたのです。原動力になったものはいろいろあるようです。佐藤さんにとって、ハリーナ出店につながる出発点を聞きました。
 「子どもがまだ小さかった頃、京都で福祉生協を立ち上げようという準備会があり、その活動に参加したことは出発点と言っていいのかもしれません。当時子育てで大変な時期だったにも関わらず、様々な講座に参加し、たくさんの講師の方のお話を聞く機会があったのです。農業政策や環境政策なども勉強しました。生協という枠で考えると、自分たちが納得する商品を作ることや理念ということを学びました。また、講座のテープ起こしを引き受け、それがさらに勉強になりました。生活援助ワーカーズも週1回やりました。お金を稼ぐだけではなく、時間預蓄制という考えから、自分が援助してほしいときに使える時間通帳があったのを思い出します。今でいう地域通貨ですよね。」
 佐藤さんはその活動で知り合った方に誘われ、エルコープに入ったと聞きました。エルコープは京都で「もうひとつの生協」として始まり、無店舗で配達だけの環境派生協です。私も時期を同じくしてエルコープに入り、左京地区運営委員会の委員長であったの佐藤さんに出会ったのです。
 さらに、話は続きます。
 「約12年前、パンダ園という心臓病の子どもたちと健常児の共同保育所で給食作りのボランティアを始めました。週に2回給食作りをしながら、先輩主婦の方にお料理を教わり、人に食べてもらう喜びを知り、自信をつけました。他にも子ども文庫やエルコープの活動と忙しい毎日でした。その後、ちょっとしたきっかけで、自然食レストランでのバイトを始めました。」
 私は、レストランでのバイトは修行であり、お店を出すという構想があっての前段階だったと思っていました。しかし、計画したものではなかったようですし、逆に、「オーガニックや自然食という一種のブランドを信奉し、自己満足を覚えているような人たちと出会うことが多かった」といいます。
 もうひとつ、佐藤さんにとって大きな原動力になったことがあります。
 「いろいろなことに首を突っ込み、楽しく過ごしていたのですが、生協主催のスタディーツアーに参加する機会があり、末っ子の娘と一緒にフィリピンのネグロス島へ行きました。そこで見聞きしたことは、目から鱗がおちたような体験の連続で、自分自身に大きな宿題が残されたようでした。」
 2週間の旅で感じたことは、それまで漠然と思っていた疑問や迷いが迫ってくるようだったといいます。生協活動で追い求めていた、安心、安全なもの。それは作る人が本当に豊かになるのか。自分の家族が安全であればいいのか。お金と知識さえあれば選択できる安全とは……。自分自身の中のブランド志向にも気づかされたのだということでした。そして、オーガニックやフェアトレードそれだけを信奉することは安易すぎるのではないかと考え始め、むしろ不均等で誰かに操られているような経済構造はあっても、自分の感性や生活とあうように作り替えていこうとするオルタナティブな考え方を持ち、人任せにせず、自分を表現する場を作れないかやってみたいという思いが沸いてきたのだといいます。ネグロス島で感じた宿題の答えがまさにハリーナだったのです。

■ 開店してからの3年間
 ハリーナがずっと大切に考えてきたことは、佐藤さん自身が楽しく働こうということ。それは、作り手の顔がわかる、生産プロセスの明らかな食材を使うことや、野菜や魚、肉などはできるだけまるごと使い、捨てる部分を最小限にすること、そして、合成添加物を避け、加工食品を使わないようにすること、イコール佐藤さんが楽しく手作り料理することなのです。手作りの安心できるお料理とお店空間はいろいろな人を幸せにしてきました。一人暮らしの方や、赤ちゃん連れのお母さん、外国人、人と話すのが苦手な方にも会話のあるお食事を楽しんでもらっています。この小さなお店がちょうどいいサイズだと感じるのは、お店の中がすべて見渡せ、会話でき、お客様同士のコミュニケーションがとりやすいところです。ご飯を食べるというだけでなく、食卓を囲むイメージなのだなと感じました。
 ハリーナはこの6月に3周年を迎えました。原価の高い仕入れ、人件費の確保、お店を経営していくのは多くの苦労があるようです。やっと持ち出しがなくなり、これからの3年間は佐藤さん自身に給料が出せるようにしていくことが目標だといいます。
 
■ ハリーナが地域に与える影響と今後
 ハリーナの2階はフリースペースとなっています。お店での出会いの中からいろいろなイベントが生まれ、開催されてきました。定期開催となっている陶芸教室や女性のための「整体」、子育て支援グループの「小技(こわざ)クラブ」など様々な方が地域における交流の場として利用されています。ご近所の方々と1年前に始めた、「9条の会」は、憲法9条や平和のことを考える場にしたいと思っています。いろいろな世代が集うハリーナだからこそ、大切なことを伝えていくために多くの人が関わりを持ち、発信していくことができるのだと思います。地域社会に投げかける課題であるともいえ、今後の発展は多くの可能性を秘めていると思います。
 店頭で「TAOの野菜」の販売も始まっています。「TAOの野菜」は障がいの子どもを持つ親、兄弟が我が子の社会的自立を目指すとともに、障がいのある方が生き生きと働ける場をつくろうとの願いを持ち、賀茂川の上流、柊野の地域性を生かして野菜作りに取り組んでいるものです。「TAOの野菜」を通して身近なところで支援ができることは意義のある取り組みだと思います。
 地域に根ざしたお店作りを心がけてきたかどうかは、今のハリーナを見ていると関係がないようです。自然とお客様に支持され、結果的に地域に根を下ろしてきたのだと思います。地域づくりの主役として、社会に影響を与えていくことで「ソーシャル・イノベーション」を起こしていくことができると思います。人が集うことができ、ほっとできる空間であり、おいしいご飯や、安全な食べ物が提供されるのがハリーナです。食と農から環境問題の大きさに気づき、「まっとうな食べ物」を追求する佐藤さんからのメッセージは、料理となって届きます。
 「まず、第一に私が料理をしていて楽しくなくては。作り手の顔や暮らしぶりが見えるからこそ、土を洗い流している時も、きざむ時も楽しいのです。何が何でも有機オーガニックという視点はありません。できれば国産のものを、フェアトレードのものをと心がけています。」
 そういった、佐藤さんの姿勢から学ぶべきことは多いです。ゆるやかなつながりの中で、確実に伝えたい、届けたい思いが感じられるのです。
 「今、スーパに並べられている野菜は、ティッシュペーパーと同じカゴに入れてお金を支払います。食べ物の背景が見えないと野菜は他の雑貨と同じです。今ほど、生産者と消費者が切り離されている時代はないのではないでしょうか?」

 佐藤さんは、単に収入を得る手段としてだけではなく、環境や人権、人の心の豊かさや第三世界の人々にも想いを馳せ、社会的課題に使命感をもって働く「社会起業家」そのものです。ハリーナという場を得て、自分が必ずお店にいることで起る予想もしていない事柄は、狙っていたことではなかったのですが、楽しみであり、喜びであるといいます。女性が起業するきっかけは様々だと思いますし、佐藤さんのように自然体で「起業」できるのは恵まれているのかもしれません。しかし、社会に受け入れられ、事業として成り立っていくためには自己実現のみならず、社会への貢献と収益性をバランスよく追求し、さらなる発展を目指すことが継続につながると思います。
 


参照URL
キッチンハリーナ http://kitchen-halina.net/
社会起業家研究ネットワーク http://cacnet.org/